いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~



「ましてや沙優ちゃんの恋は片想いのまま放り出されたんだから、また好きになるのは自然だよ。見た感じ、いち君はむかくつくくらいいい男っぽいしさ」


おどけたように笑って、聖司は優しく目を細める。


「大丈夫。沙優ちゃんは、昔の恋に引き摺られてるわけじゃない。いち君だから、だよ」


いち君だから、惹かれて。

いち君だから、好きになる。

聖司のアドバイスに、私は目から鱗だ。

確かにそうだった。

いち君が転校するまでは、いち君以外の男の子を異性として意識したことはなかった。

彼がいなくなってようやく意識できたのが聖司で。

それでも、いつも心のどこかにいち君の存在があった。

聖司はそれを受け入れつつ、でも必死に消そうとしてくれていたけれど、私たちは互いに苦しさを覚えるようになっていって。

高校卒業を前に、私から別れを告げた。

ごめんなさい、と。

先ほど聞かれた、【聖司に再会してときめくか】の答えはNOなんだけど、彼と出会えて良かったとは思っている。


『大丈夫、大丈夫だよ沙優ちゃん』


今さっきも口にしてくれた、大丈夫。

何度もそう言って寄り添ってくれていた聖司だから、甘えることができたのだ。

聖司じゃなければ、付き合おうとは思わなかっただろう。


「聖司、ありがとう」


昔も、再会した今も、私を優しく支えてくれて。


「うまくいくといいね」


今日、聖司がいたら行かない、なんて思ってたけど、彼がいてくれて良かった。

……なんて、都合良すぎだよね。

とにかく、今後もし彼がいても警戒なんてすることはなさそう──


「うまくいかなかったら、俺と付き合おうね」


では、なさそうだ。

一応、彼の軽口でいち君が振り回されないようにしなければならないのは確かなようだと、この後も散々口説かれながら、私は苦笑し考えていた。