「なってないよ」
答え、プラスチックのストローを咥えると、聖司は驚きとも呆れともとれる表情を浮かべる。
「マジで?」
くし切りにされたレモンをグラスから外した聖司は、どこからか聞こえる笑い声に自身の声を重ねた。
「だってあの人めちゃくちゃキレてたじゃん」
「うん、そうなんだけどね」
「あ、沙優ちゃんがその気じゃないの? あんなに好きだった相手なのに?」
お母さんと同じことを言われて、私は眉を下げてしまう。
「好きだったから、よくわかんないんだ」
ときめいたりするのは、昔の想いが一時的に復活してるからなのかもって考えてしまう時があって、自分の気持ちがよく見えない。
それを素直に言葉にすると、聖司は「なるほど」と頬杖をついて私を覗き込むようにする。
「俺と再会してさ、俺にときめいてる?」
「全然」
「ハッキリ言うね〜」
笑いながら頬を引攣らせる聖司は「まあいいや」と言うとグラスに口をつけた。
そうしてお酒で喉を潤すと、つり目がちな瞳に再び私を捉える。
「沙優ちゃんホント引きずってたもんなー。だからこそ変に悩むんだろうけど、別にさ、過去のいち君にときめいてるわけじゃないじゃん? 今のいち君の行動でときめいてんだろうしさ。好きだったから、好きになりやすい。そういうことじゃない?」
好きだったから、好きになりやすい。
その言葉に、私の中で何かがストンとはまったような感覚がした。



