今のはつまり、母はいち君から縁談の話を持ちかけられた際に理由を聞いているということだろう。

でも、考えてみればそうだ。

いくら知ってる相手でも、十年以上音沙汰無しの相手がいきなり縁談の話を持ってきて、いくらチャンスは逃すな思考の母でも何も聞かずにはいどうぞ、とはならない。

理由を話したからこそ、うちの両親は納得して私に話を振ったのだ。

正直、私だけ知らないのは癪だけど、いち君はまだ話してくれそうにもないので仕方ない。

転校なんて親の都合だとばかり思ってたけど、いち君の様子から見ても何か事情があったのだ。

そして、それを乗り越えて私に結婚を申し込みに……来た、んだとすれば。


「それ、めちゃくちゃ愛されてるパターンなんですけど」


思わず声にして、自分で言ったくせに顔が熱くなる。

え、え? え! ええ!?

いやいやいや、一旦落ち着こう。

あくまでこれは私の想像。

実際は転校するのに伝えられないおうちの事情があって、まあいち君も色々あり、なんだかんだで幼馴染のあの子がいいな、みたいな流れが妥当だろう。

あまりロマンチックに考えて舞い上がるのは危険だ。

そう、そうだ。

期待して、恋に落ちて、また突然いなくなられたら……多分、もう二度と恋なんてできない。

私はベッドに腰掛けたまま、部屋を見渡した。

昨日、この家にいち君がいた。

一緒にご飯を食べて、抱き締められて。

その後、タルト食べようって私が言って空気は元に戻ったけど、もしも、私が抱き締め返していたならどうなっていだろう。


「……着替えよ」


今日は休日。

たらればに囚われていたら、せっかくの休みを無駄にしてしまう。

とりあえず冷蔵庫の中はすっからかんなので、コンビニに何か買いに行こうとクローゼットを全開にした。