「久しぶりに作るから上手くできてるかわからないけど、食べてみて」


いち君のお母さんは『これが更に美味しくなる魔法のジャムよ』と、アプリコットジャムをプラスしていたので、もちろんそれも煮たりんごに混ぜてある。

横に立ち、ドキドキしながら見守っていると、いち君はフォークを手にした。

続けて、いただきますと唇を動かすと、そっとタルトを切り取る。

そして、ひとくち味わって。


「……うん、同じ味だ」


何年振りだろう。

彼は嬉しそうにそう声を零して目元を緩めた。


「良かった! ほら、元気がない時はお母さんの手料理とか食べると不思議とホッとするじゃ」

「沙優」

「え、わっ」


私の言葉に被せるように名前を呼んだいち君は、私の腕を強く引く。

そして、突然のことにバランスを崩した私の体を力いっぱい抱き締めて閉じ込めた。

顔がカッと熱くなって。

トクトクと、鼓動が早鐘を打つ。


「ちょ、いちく」


懐かしい母の味に感極まっちゃったのかと、目を泳がせていれば、意外にも落ち着いたいち君の声が耳をくすぐった。