二階へ上って休憩室へ入ると、ソファに座って脚を組んでいる上村先生が手招きをする。

「隣に来なよ」

休憩室には患者の待合室と同じ4人掛けのソファが四列並んでいる。

上村先生の前の列のソファに座ると、振り向かなければ会話ができなくて不自然だ。

隣に座るのが普通だろうと思い、一人分くらいの距離を置いて腰を掛けると、先生は缶コーヒーを差し出した。

「これどうぞ」

「えっ、いいんですか?」

「ああ。俺の分も買ったし」

先生はすでに開いているコーヒーの缶を私に見せて揺らす。

「…じゃあ、いただきます」

私もキャップを開けてひと口ごくり。

温かさが胃までじわりと落ちてきて、緊張が少し和らいだ。

「あの、なにかご用でしたでしょうか」

「今度馴れ初めを聞かせてくれって言っただろ」

上村先生は当然のように微笑むけど、あんなのは社交辞令みたいなものだと思っていた。

「馴れ初めなんて大袈裟なものじゃないです。NSTの飲み会で意気投合しただけで」

馴れ初めを聞いてくる人たちには定型文のようにこう答えている。

「意気投合って?」

間髪を入れずに質問されて、言葉に詰まる。

悠さんがどの程度上村先生に話したのかわからない状況で、私がどう言うのが正解なんだろう。

そもそも上村先生と悠さんが親しいのかもどうかもわからない。