翌週、昼休み明けに病棟用の献立表を張り替えるため、医師休憩室へ寄った。

「相沢さん」

男性の声で呼ばれて振り返ったら、後ろに立っていたのは脳神経外科の上村先生だった。

毛先を遊ばせたダークブラウンの髪。シャープなつり眉に切れ長の目。鼻ががっちりしたワイルドな顔立ち。

身長も悠さんと同じくらいだろうか。

上村先生も院内ではイケメンとして有名だ。

だけど私は外科病棟を一度も担当していないから、ほとんど顔を合わせた覚えがない。

話すのも初めてだと思うのに、私の名前を知っていることに少し驚いた。

「お疲れ様です。午前の診察はひと区切りしたんですか?」

「ああ、少し休める時間が取れそうだ」

「そうなんですか。お疲れさまでした」

そのまま去ろうとしたら「ねえ」と声がして、再び振り返った。

「相沢さん、君はどうやって風間先生の心を掴んだの?」

「え?どうやってって…」

思いも寄らない口を噤んだ。

言葉を探して少し黙っていたら、上村先生は意味ありげにニヤリと笑った。

「…まあいい。馴れ初めはまた今度聞かせてもらおうか。じゃあまた」

仮眠室へ向かうのか、上村先生は欠伸をしながら背を向けて去って行った。