契約結婚なのに、凄腕ドクターに独占欲剥き出しで愛し抜かれました

「…凛?」

首を横に振るだけでなにも言わない私を、悠さんは心配そうに覗き込む。

だけど、悠さんの輪郭はどんどんぼやけて見えなくなっていく。

悠さんの気遣いが見えるたび、努力が伝わるたびに、私は苦しくなっていった。
 
悠さんの本当の愛は絶対に得られない。

私たちは結局偽物の夫婦でしかない。

いつの間に、私の心はこんなに悠さんでいっぱいになってしまったんだろう。

次々に滴があふれ、頬を濡らしていく。

だけど、楽しかった一日を台無しにしたくない。

悠さんの努力を無駄にしたくない。

ぐいっと目元を拭って、無理やり微笑んでみせた。

「昔…父と来たんです、この遊園地。ちょっと思い出しちゃって」

「…そうか」

咄嗟に出た嘘を悠さんは信じてくれたようだ。

父を思い出した私を不憫に思ったのか、悠さんは私をやさしく抱きしめる。

「大丈夫だ。俺がいる」

ますます涙が溢れてきて、悠さんの胸に顔をうずめた。


悠さんは「おやすみ」と髪をなでてキスすると、そのあとは落っこちてしまいそうなくらい端に寄って、体を逆向きにしてしまった。

私も反対側の端っこで丸まって目を閉じた。


真ん中に空いた白いスペースが、私たちの距離。

埋まらない隔たり。