「どうしたの相沢さん、固まっちゃって」

後ろから声がしてハッと我に返った。

振り返ると市川さんがいて、その奥にもぞろぞろと集まりつつある。

私が塞き止めてしまっていたのだ。

すみません、と焦って靴を脱いで座敷へ入った。


「はい、みんなお疲れさま。かんぱーい!!」

リーダーの神田先生がジョッキを振り上げ、乾杯の音頭を取る。

私の隣には市川さん、そして向かいには神田先生がいる。

神田先生はかなり苦手だ。

普段からセクハラ発言を繰り返しては、こちらの反応を見てニヤリと笑う。

NSTのミーティングの時は風間先生が副リーダーとしてそれとなく話題を変えてくれることもあるけど、テーブルを見回すと、彼は反対側にいるようで私の席からは見えない。

「相沢さんみたいな優秀な管理栄養士が入ってくれてよかったですよねえ、神田先生」

市川さんの言葉に、神田先生はジョッキを持ちながら大きく頷く。

恰幅のいい神田先生が持つと、ジョッキが他の人よりも小さく見える。

市川さんの話術で上機嫌になっている神田先生。

私もご機嫌を取ろうと言葉を探す。

「歯科口腔外科は紹介状がないと受診できないんですよね?でもいつも患者さんでいっぱいですよね。先生、お忙しいですね」

「いやいや、慣れたもんだよ。毎日肩が凝って困るがね」

ガハハと笑うこの人は、悪代官みたいな顔をしているといつも思う。