先生が連れてきてくれたのは、雑誌でよく取り上げられる有名なイタリアンレストランだ。

こんな服装で入っていいんだろうかと不安になったけど、ドレスコードは特にないようでホッとした。

一番人気だという季節のコース料理をオーダーしたあと、先生は姿勢を正して私に向き合い頭を下げた。

「すまなかった。懸念はしてたけど、本当に神田先生がNSTをやめさせようとするとは思わなかった」

「いえ! 全然先生が謝る必要ないです。私がもうちょっと我慢すればよかっただけで」

頭を下げている先生には見えないのに、胸の前で大きくブンブン手を振った。

「あと、昨夜のタクシー代ありがとうございました。これ、おつりなんですが」

カバンから茶封筒を出したら、顔を上げた先生はぽかんとして、それからクスっと笑った。

「マメだな、君は。とっとけばいいのに」

「でも、そういうわけには…」

「…じゃあ、ここの代金としてもらう。それでいいか?」

「はいっ」

勢いよく答えたら、先生はまたふっと笑った。

1万円ももらっておいて、タクシー代が2000円だったなんて申し訳なさすぎる。

返すのが筋だろうと思ったんだけど、何かおかしかったかな。