「先生はなんで女嫌いなんですか?」

先生はピタッと止まって、面食らったように私を見下ろした。

そして、手の甲を口元に当ててふっと笑う。

…私何かおもしろいこと言ったかな。

「君がそれを面と向かって聞いてくるのは意外だな。
そういうことには全く興味がなさそうなのに」

先生はそのまま黙り込み、余計なことを言ってしまったと焦って言葉を探す。

だけど、私がうまい言葉を見つける前に、先生は伏目がちに口角をあげた。

「つまらない話だ。聞くか?」

「…はい。聞きたいです」

「昔から知らない女に告白されるのは慣れてて、誰も中身を見てくれないって諦めてたけど、初めて本気で好きになった女が喧嘩の時に言ったんだ。
顔がいいだけで、性格なんかどうでもよかったって。
…それが決定的だったかな。もう8年も前の話だ」

「8年も、その人のせいで傷ついてたんですか…?」

先生は目を丸くしてこっちを見たあと、眉を下げて笑みを浮かべた。

「…君はやさしいな」

キュンと胸が鳴って、思わず視線を泳がせた。

何度も言うけどイケメン好きなわけじゃない。風間先生のファンでもない。

だけど、今の笑顔は反則だと思う。これでときめかない女はいない。


ドキドキしている私をよそに、先生は前に向き直ってまた前髪をふわりふわりと揺らしている。

駅の近くは賑やかで、向かいから歩いてくる千鳥足の酔っ払いを避けつつ、端のほうへ寄って歩いた。