両腕を虚空に掲げ、伸びをする。

「んーー……」

──刹那「危ない!」という切羽詰まった男の子の声が聞こえ、思わず振り向く。

「……え?」

 視界に写ったのは、此方に向かって飛んでくる一つのボール。
 

 とっさに、回避行動をとるが、間に合わず。

 
 ゴスッ、という音と共に右腕に鈍い痛みが走った。

「ったぁぁーー~~‼」

 突如、訪れた痛みに堪えきれず、その場にうずくまる。
 

 目の前で野球ボールが転がるのが見えた。


 軽快な足音がだんだんと近づいてくるのが聞こえるが、どうにも顔をあげられそうにもなかっ。
 ──数秒前までは

「いや~、ごめんごめん!まさか、人がいるなんて思わなくてさー」

 …………………………………。

「ごめんごめんじゃなーい‼あんた!謝るきあるの!?」

 あまりにも誠意の籠っていない謝罪に、カチンと頭に来た。


 その時、私の脳内には腕に野球ボールが当たったショックなんてものは残っていなくて、ただ目の前のこいつに文句をつけること以外何も思い浮かばなかった。

「お!そんなに、動けるなら大丈夫そうだな!」

 おそらく、野球部の子が人懐っこい笑みを浮かべて笑う。
 

 その際、怪我をした方の腕を捕まれた。

 
 無意識の内に、動かしていたようだ。


「いたっ!ちょっ、いきなりつかむなよっ!」

「口の悪い女だなー。……あー、痣になってやがる。保健室行くか」

 男は私の返事を聞くことなく、腕をつかんだまま歩き始めた。

「おい!痛いって言ってるのわからないの!?」

「あ」

「あ、じゃない!」

 自分で怪我させておいて、忘れていたなんて失礼にも程がある。

 
 一応、保健室に連れてってくれようとしてくれとる辺り、多少の罪悪感は感じているのだと思う、けど。この対応は流石にないと思う。

「あははは」

 馬鹿みたいな笑い声。


 こいつ!絶対反省してない!