俺はいつも通り、《シャルレーゼ》からタクシーで約30分の俺の楽園(我が家)に帰った。


ホストNo.1の俺が住んでいるのは、高層マンションの最上階!
…ではなく、おんぼろアパート《わかば荘》の最上階(3階)に住んでいる。


俺は今日、客に貢がせた金額を計算しながら、今にも底が抜けそうな階段を一段飛ばしで飛んでいく。



「10万、20万、30万…」



俺の部屋、215号室がある3階に勢いよく降り立ち、自分の部屋に目を向けると、俺の部屋の前に一つの人影を見つける。


その人影は俺の方に体を向けたかと思うと、ゆっくりと俺に近づいてくる。



「貴方が、長谷 翔太?」



暗闇から、か細くもよく通る女の声が聞こえた。


なんでこの女、俺の名前を知ってるんだ?
客にも教えたことないはず。
俺の客の可能性は、、、ないな。
こんな綺麗な声忘れるはずがない。


俺が動揺して応えられずにいると、女がぐいっと俺に近づいた。



「うお、おい!?」



ち、近い近い近い。
距離感無いのか、こいつ!


しかし、距離が近づいたおかげで、こいつの容姿が見えてきた。


長いまつげに、大きな丸い瞳。

少し茶色がかった、ふんわりとウェーブのある髪が柔らかな印象を与える。

赤いリボンの髪留めを左耳辺りに付けていて、なんとも女の子らしい。


いわゆる、美少女というやつだ。


制服もよく似合っててかわ…


は、はぁ!?高校生!?
高校生がこんな時間に何して…


俺がジロジロ見たのを不審に思ったのか、俺の視界を遮るように白い紙を突きつけてきた。


「これ、お母さん…キラサカ レイナからの伝言」


ん?キラサカ レイナって…
あ!あの吉良坂 麗奈さんか?
俺がデビューした頃からのお得意様だ。


俺は突きつけられた紙を受け取り、黒で埋め尽くされた字面を読んでみる。


ーーーーー

しょーちゃんへ

最近、クラブに顔出せなくてごめんね。

とっても行きたかったんだけど、会社が倒産しちゃって、クラブに行くことも、まともな生活をするのも苦しくってさー。

そこで!
しょーちゃんに、1ヶ月だけ、私の愛娘のお世話をお願いしたいんだ!

私が貢いであげたお金もあるだろうし、それに、なんと言っても優しいし!
ウチの澪たんを頼んだよ!
麗奈より

ーーーーー


俺は一瞬、文字が読めなかった。





はぁ!?
1ヶ月、この子を世話?
マ、マジかよ…。
麗奈さんならこんな突飛なことを言いそうだが…。


と、とりあえず、確認だ。



「えーっと、君が、澪たん?」


「み、澪たんじゃない!私は吉良坂 澪!」


澪たんと言われたのが恥ずかしかったのか、すこし慌てたような声をあげて、俺に訂正をしてきた。



「君に聞きたいことが山ほどあるんだけど…とりあえず、寒いし、中、入ろっか?」


「…あ、ありがと」