不完全美学


凪はあたしの髪から指をほどくと、ゆっくりと立ち上がる。


「無駄に格好つけるなよ」


あたしの心はざわついていた。

悔しさや、恥ずかしさ。
それに、寂しさで。

なかなか動こうとしないあたしに向かって、凪はさらに言う。


「行け。大丈夫だから」


凪の言葉。

あたしは知ってる。
凪は絶対に、無駄な嘘はつかないって。

その凪が「大丈夫」って言ったから。

力の抜けていた身体が急に軽くなり、あたしは勢い良く立ち上がる。

振り向きもしないまま、あたしは家へと駆け出した。