家に帰ると
「やっと我が家に娘が出来たなぁ」
父が喜んでくれた
本当はソフトボールをしてる娘が好きだったはず
一番上の兄、卓《たかし》兄さん
二番目の兄、航《わたる》兄さん
二つずつ違いの三人兄妹
兄二人もソフトボールをしていて
ポジションはセカンド
父のポジションだ
父に憧れて子ども達三人共
セカンド
ここだけは譲れなかった
父も怪我でソフトボールを諦めたって聞いたからこれは家系かな?
卓兄さんだけは大学卒業後
地元の企業に就職して
会社の持つソフトボールチームに所属している
母は父の高校時代のマネージャーさん
よくあるパターンの恋らしい
我が家はソフトボール一色の家だったはずなのに
気が付けば続けているのが一人だけなんて少し寂しい
これからのことを考えると言いながら
我が家の心地よさに甘えている
「お父さん、私・・・今の大学って
ソフトやるために入ったから
これから何すれば良いのか全然思いつかない」
「今すぐなんて答え出さなくて良いよ
茜は学生なんだから、これからは勉強に力を入れて
その中でやりたいこと探していけばいいんじゃないか?」
ビールでホロ酔いの父は
日に焼けた顔で目尻にシワを寄せた
・・・・・・
相変わらず毎日積もるメールに返信もせず
買い物以外は外に出ないって生活を続けた8月の終わり
「茜、今夜は花火大会だから
浴衣着せてあげるよ」
母が浴衣を出してきた
気分転換になるかとその気になった私は
髪をハーフアップにして
毛先を巻き髪に・・
メイクも念入りに仕上げた
予定のなかった航兄と
浴衣を着て土手まで歩く
航兄の袖を握っていないと
はぐれそうな程の人出に若干の恐怖を感じる
「もしもはぐれたら・・・
探さずに歩いて帰るんだぞ?」
うっかり携帯を忘れたという航兄と
少し開けた場所で土手に腰掛けた
カウントダウンの後に始まった打ち上げ花火は四千発
夜空を華やかに染める花火に
心を奪われながら
写真を撮ると京介に送った
[花火綺麗だよ]
久々に送ったメッセージは
積もっている京介からの返信とはかけ離れたもの
その手の中で携帯が鳴り始めた
「もしもし」
(茜、どこにいる?俺も来てるんだ)
「土手、どこって目印ないし
航兄と来てるから・・じゃあね」
強引に切ってしまった
だって・・・恵の言葉が頭を過ぎる
こんな日に京介に会ったら
何を話して良いのか分からない・・・
それなのに
馬鹿な京介は30分後に汗だくで
私達の座る土手の下に立った
「お~~京介こっち来いや」
脳天気な航兄が手を振る
「お久しぶりっす
航さんっ失礼します」
大きな声で挨拶すると私の隣に座った京介は
「茜、航さんと一緒じゃなかったら
俺、見つけられなかったぞ
・・・・・・お前別人かと思った」
一瞬ドキッとしたけれど
その気分を払拭するように顔を上げた
「そ~お?可愛くてビックリしたんでしょ?ま、磨けば光る茜様だから仕方ないよね~」
誤魔化す為に態と上げたテンションに口数が多くなる
このまま流してくれれば良かったのに
京介はやけに真面目な顔をした
「あぁ凄く可愛い」
ポツリと出された声に胸がギュッと苦しくなった
空に広がる花火も霞んでしまう程
隣に座る京介が気になって仕方がない
結局、京介が現れてからの花火は記憶に残っていなかった
花火が終わると人の波にのまれ
気がつけば航兄と逸れて京介と二人になっていた
下駄を履く指が痛くて
その京介からも遅れ始める
そんな私に気付いて振り返った京介は
「あぁ下駄だから遅いのか
仕方ねぇゆっくり歩いてやるよ」
ペースを緩めてくれる
「いいよ先に帰って!一人で帰れるから」
痛いより気不味さが勝って顔を背けたのに
「お前襲われるぞ?危ねぇから家まで送る」
そう言われると次の言葉がない
京介はゆっくり歩いてくれるのに
更に足に痛みが出て遅れる
「どうした?浴衣だから歩幅狭いか?」
立ち止まった京介に
「下駄履くの初めてだから指が痛いの」
黙っていることも出来ず
素直に話せば
「そんなの履いてっからだよ」
クスと笑った京介は私をヒョイと抱えた
・・・お姫様抱っこ
「やだ恥ずかしいじゃん」
顔も近すぎだし抱えた手が胸に食い込んでる
「痛いの我慢すんな。肘だってそうだろ?
なんでそんなになるまで放ってた?
俺、マッサージだってできるのに
お前って本当馬鹿だよな」
いつも私のことを思ってくれる優しい京介
こういうところは小学生の頃から変わらない
・・・私のことが好きだから?
それは口が裂けても聞けない
京介とは変わらず友達でいたい
モテる京介のことだから
私より似合う子は山程いるはず
それに私は・・・今の今まで
京介を恋愛対象としてみたことがない



