「でも、メスとして選ばれて、受け入れたってことでしょう?」
「ちがくて、こう、ふたりの男性のあいだで揺れ動く乙女心……」
「つまり、メスにも選ぶ権利があって、子供が厳しい環境でも生き残れるように、より強い遺伝子を持ったオスを選ぶという」
「なんでそんな野生動物的な視点なの……」
信号が変わって歩き出しながら、絵里奈はもどかしそうに私を見る。
「なんでわかんないかなぁ。そういうオスメスの話じゃなくてさ、勝手に気持ちが動いちゃうみたいな。一緒にいて心地いい人とそうじゃない人っているじゃない」
「たとえば……御池さんや西村さんは無理だけど、社長なら平気、みたいなこと?」
私が言うと、絵里奈はまつげで拡張した目をくわっと開いた。
「えっ、それって!沙良ちゃんは社長を男として見てるってこと!?」
「男として……?」
身を乗り出すように尋ねられ、私は首をひねる。
私は『恋愛』の対象として社長を見ているのだろうか。
それともたんに、オスとして社長を選ぼうとしているのか。

