狭い部屋の中に、ただ見つめ合うだけの静かな時間が流れた。

 社長の凛々しい眉は、ぴくりとも動かない。

 ただ、瞳だけが揺れている。

 潤んだ目で、まっすぐ私を見つめている。

 何かを口にするように、形のいい唇がわずかに動いたけれど、そこから言葉が漏れることはなかった。 

 そのかわりに、社長の右手が動く。

 私のむき出しの肩を、ゆっくり、ためらうように掴む。

 まるで触ったら崩れてしまう砂の人形をつかむように、慎重に私を引き寄せる。

 整った顔が間近に迫り、心臓が音を立てた瞬間、社長の唇がふわりと左の頬に触れた。

 そのまま私から離れ、社長はすぐに立ち上がる。
 
 性急な動作に置いてきぼりにされてぽかんとしていると、社長は私の顔を見ないまま言った。

「それじゃあな。夜更かししすぎるなよ」

「え」

 自分の荷物を拾い上げてさっさと玄関に向かっていく背中を、慌てて追いかける。