西村さんたちがおもしろがって私にあの服をあてがったことはわかっていたけれど、道中はコートを羽織るし、なにより高級店にパーカーで行って社長に恥をかかせるよりはましと思い、そのときは黙って着た。

 けれどやっぱり、私は普段の格好が一番落ち着く。

 だから本当は、スーツを着るのも気が進まない。

 でも私の格好が、社長のお供をするのに、ふさわしくないことはわかるから。

 ジャケットを羽織ってカーテンの外に出ると、デスクに座ったままの社長と目があった。

 ふっと口元を緩めて、社長はからかうように言う。

「就活生にしか見えないな」

 あらゆる角度から私を眺めていた絵里奈が、真剣な顔で私の髪に手を伸ばした。

「髪、上げてみましょう」

 背の高い絵里奈は、うしろに回り込むと扱いにくい私の髪を器用に編み込んでハーフアップにした。

「それと、メイクもちょっとだけ」

 そう言って、私の顔にぱたぱたとパフを押し付け、唇を筆先でなぞる。

「はい、出来上がり。どうですか社長」

 頬杖をついてこちらを見ていた社長が、にこやかに笑った。

「上出来だ」