「おい眞木。悪いけど頼む」

「はいは~い!」

 察していたように絵里奈が事務机からすばやく立ち上がり、顔中をほころばせて寄ってきた。

「それじゃ沙良ちゃん。こっちこっち」

 給湯室脇にあるロッカーからストライプのパンツスーツを取り出すと、「はい、これに着替えて」と私に押しつける。

 この会社の人間はどうしてこう衣類を私に押し付けるのだろうと思いつつ、おとなしく受け取ってパーカーを脱いだ。

 絵里奈がカーテンを引いて用意してくれた即席更衣室で白シャツに腕を通しながら、一昨年の年末にも西村さんから服を押し付けられたことを思い出す。

 プレゼン勝利の打ち上げと忘年会を兼ねて社長が予約してくれた高級中華レストランに行くのに、私の持っている服ではカジュアルすぎるからと、西村さんが彼女のチャイナドレスを貸してくれたのだ。

 ちなみになぜ西村さんの彼女がそんな服を持っていたかというと、コスプレ好きの知人の結婚披露宴で着るために買ったのだとか。

 彼女は一度しか着ないままクローゼットの肥やしになっていたそれを私にくれると言っていたらしいけれど、それは丁重にお断りした。