上から、あくまで静かな視線を注ぎながら、社長ははっきり口にした。
「沙良はうちの大事な社員だ。おまえのところにはやらん。用がないなら帰れ」
見下ろされた竜崎は唇の端を持ち上げて、挑戦的な笑みを浮かべる。
「へえ、いいんですかそんなこと言って。うちとの仕事がなくなったら、この会社、つぶれません?」
私の真横で繰り広げられるにらみ合いを、西村さんがニヤニヤ笑いながら見ている。
共有テーブルで差し入れの菓子をつまんでいた絵里奈は、驚いたように行く末を見守っていた。
時間にして十数秒後だろうか、ふいに竜崎が吐息を漏らした。
「なんてね。冗談ですって。そんなことしたら、俺が三好(みよし)さんに殺される」
共有テーブルに戻り、やり手営業マンは置いていたカバンから書類を取り出した。
「今日は仕事の話を持ってきたんですよ。大手飲料メーカーが新製品を出すんで、そのキャンペーンHPの制作をお願いしたくて」
書類を社長に差し出すと、竜崎はまたもとの油断のならない笑みを浮かべる。

