どうやらプレゼンに負けたことが相当悔しかったらしい。普段の寡黙さはすっかり鳴りを潜め、『大手』全般に敵意むき出しになっている。
「……なんかあったんすか?」
画面に向かって呪詛を連ねている西村さんに気づき、竜崎は興味深そうに目を細めた。
薄笑いを浮かべる竜崎に、西村さんはかっとしたように声を荒らげる。
「なんかもなにも!あんたらと双璧をなす広告業界の重鎮、黎明堂様に、してやられたんだよ!」
このふたりは普段からあまり相性がよくない。
いずれも27歳だけれど、かたや大手の営業マン、かたや下請けのディレクターという立場の違いのせいか、西村さんが一方的に相手を意識している節があった。
「ははあ、なるほどね」
詳しい話を聞くと、竜崎は絵里奈が淹れたお茶を立ったまますすりながら笑みを浮かべた。
「その広告主、代理店を他から黎明堂に変えたかったんだな。大っぴらに乗り換えると角が立つから、一応表向きはコンペの形をとって、使わなくなった代理店を切る」
すっと人差し指で自分の首を切るしぐさをして見せると、悪びれずに続ける。

