「せっかくだから化粧もしてみろよ。おまえ元は悪くないから、ちゃんとしたらかなり化けそう」
「ヴヴン!!」
反対方向から咳払いが聞こえて、竜崎が振り返る。口元に手をあてて「ごほごほ」と咳をしている社長に気づくと、含みをもたせるように笑った。
「結城さん、風邪すか?」
「……いや」
「エアコンて乾燥するから喉やられるんすよねー。今度差し入れで飴もってきますよ。ハチミツを使っためちゃくちゃうまいヤツがあるんで」
竜崎の顔には人好きのする笑みが浮かんでいるけれど、その心にはしっかり蓋がされているのだろうと思った。
この自称やり手営業マンを見ていると、相反するふたつのイメージが頭に浮かんでくる。
両腕に抱えた花束のなかに拳銃が埋まっているような、美しく翅を広げて飛び立とうとする蝶の周囲にクモの巣が張り巡らされているような。
「そういうふうに金や権力にものを言わせるわけだよ。これだから大手は」
竜崎本人に言ったわけではないようだけれど、西村さんはいまだにぶつぶつ言っている。

