一途な社長の溺愛シンデレラ


 そう言いながらも、西村さんは地団駄を踏むようにしてデスクに戻っていく。

 湯気を立てているマグカップを慎重に持ちながら席に戻る途中、つかれた顔の社長と目が合った。

「……おつかれさま、です」

「おう」 

 私の手元をちらりと見て、社長は整った顔をかすかに崩す。

「今日も牛乳飲んでるのか。いいことだ。骨が強くなるからな」

 子どもにするように私の頭をわしゃわしゃ撫でて、エグゼクティブデスクに戻っていく。

 机に大仰な名前がついていても、実質は私たちのデスクより一回り大きいだけだし、社長室もないから彼は常に社員たちと同じフロアにいる。

 なみなみ入ったマグカップに口をつけながら、私は自分の席に座った。

 ちなみにこれは牛乳じゃないし、育てたいのは骨ではない。

 五メートルほど離れた席から、ガチャガチャとパソコンのキーを叩く音が聞こえてくる。

 西村さんはいつもキーボードの打ち方が騒がしいけれど、今日は一段と乱暴だ。 

 溜め込んだ気合とやらは、ぶつける対象を失うと体内で苛立ちに変わってしまうらしい。