絵里奈の弁舌を聞きながら、西村さんの企画書に目を戻す。
「ふうん、そっか」
「で、沙良ちゃんから見てどんな感じ?」
きっと西村さんが頭をしぼってしぼって絞り尽くして作り上げたであろうそのイメージは、柔らかな色調でかつ可愛らしく、購買層の目を引くようなデザインになっていると素直に思った。
どことなくありきたりではあるけれど。
「いいと思う」
私が答えると、絵里奈は「やった!アート・ディレクターのお墨付き!」とまるでプレゼンに勝利したみたいに手を叩いた。
ちなみに私はアート・ディレクター、西村さんはクリエイティブ・ディレクターという肩書きを持っているけれど、この会社においては肩書なんてあってないようなものだ。
西村さんの指示で私がデザインを作成することはあるけれど、大きな案件以外は基本的にそれぞれひとりで仕事を進め、社長のチェックを受けるという形になっている。
自分の作業に没頭しているうちに、カフェカップの中身はすっかり冷めてしまった。

