「どうした? 怒ったか?」
楽しそうに笑っている御池さんは、私がもし怒ったり泣いたりして感情を爆発させても、動じないどころか大笑いするにちがいない。
台風男よりも厄介なこの人には、無視も通じない。となれば……。
「お昼、行ってくる」
逃げるが勝ちだ。
財布を掴み大急ぎですりガラスの入口ドアを抜けて、真正面に設置されたエレベーターのボタンを押した。
この会社では昼をとるタイミングは各自に任されている。
今日はまだ昼休憩に行っていなくて良かったと思いながらエレベーターを待っていると、背後でカランとドアベルが鳴って社長が出てきた。
「沙良」
心臓が音を立てた。
これまでにも数え切れないくらい社長と顔を合わせているのに、五日前のあの夜以来、彼と向き合うと動悸が激しくなる。

