一途な社長の溺愛シンデレラ


 厄介なことに、このカフェの店主でもある彼女――松橋亜沙香(まつはしあさか)は社長と知り合いだ。

 社長の顔の広さを呪いつつ「ちょっとね……」と曖昧に返事をして小銭を置き、次の客にレジを明け渡した。

 無垢フローリングの床に同じ柄のテーブルと椅子、それからペンキで塗ったような風合いの壁に、グラフィックポスターが貼られている。

 ブルックリンスタイルとでもいうのか、手作り感のある洒落た店内にはカウンター席のスツールが三脚とふたり掛けテーブルが四席しかなく、とても狭い。

 それにもかかわらず、レジには毎朝長蛇の列ができる。

 忙しく動き回りながら、亜沙香が私にテイクアウトのカップを差し出した。きれいな顔を優しげに崩して微笑む。

「いってらっしゃい、沙良ちゃん」

 Slo-Moは手ごろな値段で本格的なコーヒーを楽しめることが売りだけれど、彼女のこの笑顔見たさに通うおじさんも多いと、いつだか社長が言っていたことを思い出す。

 なんの憂いも屈託もなく、感謝や愛情や労りや、そういった柔らかな感情を凝縮したような顔で亜沙香は笑う。