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会社の最寄りである地下鉄、仲野坂駅の目の前には、レインボータワーと呼ばれる巨大なオフィスビルがそびえている。
33階建てのそのビルを目指して、人々は働きアリのごとく地下を移動し、狭い階段を押し合いへし合い地上に向かう。
その混雑ぶりは、都内に住むほとんどの人間が集結しているんじゃないかと錯覚するくらいには、ひどい。
ただでさえ人に酔いやすく、殊にサラリーマンの整髪料やOLの香水の匂いが苦手な私は、一度利用しただけで倒れそうになった。
それ以来、大事をとって、通勤ルートは最寄りの一駅前で電車を降りて会社まで歩くコースになっている。
「ブレンド。……あ、ちがう」
毎朝立ち寄るカフェSlo-Mo(スローモ)でいつものようにコーヒーを注文しかけて、あわてて言い直した。
グレーのロングTシャツにダークブラウンのエプロンを重ねた女性スタッフが、訂正した注文内容を聞いてにやりと笑う。
「沙良ちゃん、コーヒーはもうやめたの?」

