一途な社長の溺愛シンデレラ


「ほら、食え」

 目の前に差し出されたどんぶり茶碗には、社長特製のトマトチーズリゾットが盛られている。

 スプーンを受け取って口に運ぶと、ビールしか入れていなかった胃に旨みが染み渡るようだった。

「おいしい」

「当然だろ。俺が作ったんだから」 

 ゆっくり咀嚼している私を満足げに見下ろすと、社長は脱いでいたコートをさらりと羽織った。

「それじゃ俺は帰るけど、しっかり食って、しっかり寝ろよ。次来たときに散らかってたら承知しないからな」

 言いおいて、彼は来たときと同じ唐突感をともなって部屋を出ていった。

 ゆっくり閉まる玄関ドアを見つめながら、ぼんやり思う。

 4年前に初めて顔を合わせたときから、社長は驚くほど親切だった。

 口は悪いけれど、謎の世話焼き体質――通称『おかん能力』をいかんなく発揮して私をここまで導いてくれた。

 仕事の面でも生活の面でも世話になりっぱなしだ。


 いくら世間知らずの私でも『タダより高いものはない』という言葉くらい知っている。

 だから、社長の親切の裏にはなにかがあるかもしれないと、なかば覚悟は決めていた。

 それなのに、4年経った今でも社長は私になにひとつ要求しない。