きょとんとしていた社長の顔が、みるみる変化していく。
凛々しい眉を劇的につり上げて、彼は私の頬をおもいきりつかんだ。
「寝言は寝て言え!」
怒ったように立ち上がると、社長はキッチンに向かいふたたびコンロに火をつけた。
「米を炊いておいたから、明日からもちゃんと食えよ。簡単に作り置きもしてくから。レンジで温めるくらいできるだろ」
私の言葉なんて最初から聞いていなかったように、社長はまた『おかんモード』に突入する。
ふたたびコンロに火をつけると、フライパンにトマト缶を投入して煮込みはじめる。
さっきから部屋中に食欲を誘う香りが漂っている。
私は料理ができないから、うちにある調理器具や調味料は、ほとんど社長が用意したものだ。
それどころか、この部屋自体、社長に紹介してもらって借りたマンションだった。
なんでも社長とこのマンションのオーナーが知り合いだとかで、破格の賃料で貸してもらえることになったのだ。
高校を卒業してデザート・ローズで働くようになってからの4年間、私はこの部屋で、社長に助けてもらいながらどうにか暮らしている。

