たしかに、いつも適当に乾かしてぼさぼさになっている髪が、今はまっすぐに伸びて艶まで放っている。
「……髪切ろうかなぁ。社長みたいにきれいに乾かせる自信ない」
切るタイミングを失って伸ばしっぱなしの髪は、いつも後ろでだんごにしている。
その一番の理由は髪がぼさぼさでまとまらないからだ。
手入れも下手だし、下ろしていると邪魔だし、それならいっそ切ってしまったほうが洗うのも乾くのも早くて扱いやすい気がする。
「ねえ社長、切ってくれる?」
振り返った私の髪をひと筋つまんで、彼はかすかに表情をくもらせた。
「切るのか……もったいないな。こんなにきれいなのに」
「……」
こんなとき、私は不思議に思う。
『女なんだぞ』と私を女扱いして、一人暮らしの『女』の家に平気で上がり込み、「きれい」なんて軽々しく口にする社長が、いったい何を考えているのか。
だからつい、口にしてしまう。
「抱きたい?」
ためすように。
見えない心の色を探るように。
私のベッドに腰掛け、長い髪を大事そうにつまんでいる彼を、じっと見上げる。
「抱く?」

