『面倒くさい』の顔だよ、と心の中で答える。
本音をいえば、イメージが頭に浮かんでいるあいだにさっさと作品づくりの続きに取り掛かりたい。
でもこの過保護な社長に逆らうとさらに面倒なことになることは目に見えている。
あきらめて、私はおとなしく社長の膝のあいだに腰を下ろした。
カチっと音がしたと同時に頭が温風に包まれる。
社長の指が髪のあいだに差し込まれ、地肌をなぞるように下から上へと移動した。
私の髪を乾かす社長の手は、まるで壊れ物でも扱うように丁寧だ。
「お前はもう少し自分を労われよ。女なんだぞ。体冷やしたらどうするんだ」
「今日、知らないおばあちゃんに男の子に間違えられたよ」
「間違えられたって、女であることに変わりはないだろ」
ドライヤーの風に負けないように、ふたりの声はいつもよりボリュームが大きい。
社長の手の動きにあわせて、ぺったりと肌に張り付くようだった毛がさらさらと風になびいた。
「ほら、ちゃんとすれば、ちゃんとなるんだよ、お前は」
ドライヤーのスイッチを止めて、社長は私の頭をぽんとなでる。

