一途な社長の溺愛シンデレラ


 あらゆることに無頓着な私は、たぶん社長がいなかったらまともな社会人生活を送ってこられなかったと思う。

 新品の匂いがするモコモコ素材に袖を通し、部屋に入って目をまたたいた。

 脱ぎ散らかした服や資料や画材などで足の踏み場もなかった部屋がすっかり片付いている。

 まるで魔法だ。

 埋もれて見えなかったフローリングは、ワックスでもかけたみたいにぴかぴかだった。

「ほうう」と感嘆の息を漏らしながら座椅子に座って描きかけのスケッチブックを引き寄せたとたん、キッチンから声が飛んできた。

「おい、髪を乾かせよ」

「放っておけばそのうち乾くよ」

 長い髪は肩にかけたバスタオル越しに背中に垂らしたままだ。

「まったくお前は……」

 大きなため息が聞こえたと思ったら、社長が不機嫌そうに部屋に入ってきた。

 手にドライヤーをもち、ベッドに腰掛けると「ほら、こっちに頭よこせ」と自分の膝をばしばし叩く。

「……」

「なんだ、その顔は」

「……」