脱衣所のドアを開けると、食べ物を炒める匂いが鼻をかすめた。
フライパンを揺すりながら社長が振り返る。
「おう、出たか。もうすぐできるからさっさと髪を――」
言いかけた顔が瞬時に凍りつき、またしても不機嫌MAXの表情に切り替わる。
「服をちゃんと着ろ!!」
コンロの火を止めて、社長は廊下に置かれた見覚えのない紙袋から毛布のようなものを取り出し、タンクトップとショートパンツを身につけただけの私に押し付けた。
「季節を考えろ!風邪ひくだろうが!」
よく見ると、渡されたのはモコモコ素材のフード付きトップスとロングパンツだった。
淡色ピンクのボーダー柄に見入っていると、社長が弁解するように言う。
「お前、あったかい部屋着持ってないだろ」
部屋着どころか、私は服自体をそんなに持っていない。
あるものを着る、というスタンスだから、家でも外でも基本的に同じような格好だ。
「……ありがとう」
こういう可愛らしい服装が社長の好みなのだろうか、と思いつつ、買ってくれたことに対しては素直に感謝を口にした。

