目を閉じると、心臓の音が聞こえた。
自分以外の誰かが、生きている音。
そこには不思議な心地よさがあった。
私に欠けていたなにかを埋めて、なおかつすべて満たしてくれるような。世界にまるごと包まれているような、絶対的な安心感。
心地よいぬくもりに身をゆだねていると、ふと寝息が聞こえた。
私を包み込んだまま、社長は眠りに入ってしまったらしい。
本当に疲れているのだ。
起こさないように静かに腕から抜け出して、はじめて見る寝顔を間近に見下ろした。
男らしく生え揃ったまっすぐな眉に、わずかに頬骨の凹凸を浮かせた薄い頬。その一方で唇には情の深さを思わせるような厚みがある。

