広い胸にすっぽりおさまると、社長の匂いが一気に近づいた。
まだ冷たい布団のなかで、人のぬくもりに包まれる。
「社、長……?」
声がかすれて、自分が呼吸を止めていることに気づいた。
細く、小さく、肺に溜まった空気を吐き出す。気づかれないように静かに息をしながら、体内でドクドク響く鼓動をはっきり感じた。
自分の匂いがするベッドのなかで、社長に抱きしめられている。
目に見えるだけでは不確かな存在が、そのぬくもりでくっきりと浮かび上がる。
社長はホログラムでも幻影でもなく、ひとりの体温のある人間なのだと、はっきり感じられる。

