「――て、おい! なにをやってんだ!」

「ちょっと、切ってみようかなって」

 左の人差し指に包丁の刃を向けながら私が言うと、社長は慌てたように包丁を奪い取る。

「やめろばか!」

「……冗談だよ」

「仕返しのつもりかよ。はあ、まったく。おまえが言うと洒落に聞こえない」

 青ざめた顔をそっと見上げた。

 冗談だけど、一割くらいは本気だったかもしれない。

 社長に触ってもらえるなら、自分の肉体の隅っこがほんの少し傷つくくらい構わない。

 そんなふうに思う自分がたしかにいて、私はなんだか空恐ろしい気持ちになる。