社長をベッドに押し戻し、私はキッチンに戻って果実を手に持つ。苦心して芯を取り除き、ライトイエローの果肉に慎重に包丁を差し込んだ。
「気をつけろよ。この家、消毒液も絆創膏もないだろ」
性懲りもなく、社長はベッドから立ち上がってまた私の背後にやってくる。
その気配を無視しようと努めながら、私は赤い皮に沿って注意深く包丁を動かした。
「まあ、もし指切ったら、俺が舐めて消毒してやるから」
左手のりんごがすとんと滑り落ちる。
まな板に転がったそれを見つめている私に、社長はからかうように言った。
「はは、冗談だって」
それから私の手元を見て、焦った声を出した。

