部屋に入るやいなや、社長はジャケットを脱いで玄関脇のフックにかけ、買い物袋の中身を冷蔵庫に移しはじめた。

 彼に言われて姿見に目を向け、私は今日の格好に改めて気がついた。幸いにもシフォンのリボンタイは、朝から同じ形で胸元に留まっている。

「これを結ぶのに、今朝はだいぶ手間取った」

「はは、慣れだよ、慣れ」

 卵をパックから取り出して一つずつドアポケットの卵ケースに収めていた広い背中から、ふいに力が抜けたように見えた。

「さてと」

 そのままいつもの流れで掃除モードに入るのかと思いきや、社長は部屋に入るなり、いきなりベッドに腰を下ろす。どことなく沈んだ表情に、私は首を傾げた。