「それじゃあ、今はそのミューズのことはなんとも思ってないんですね?沙良ちゃんだけなんですね?」
絵里奈から詰め寄られ、社長は思わずというふうに私を振り返った。目が合ったと思ったら、決まりが悪そうにすぐさま顔を逸らす。
「いや、だから……つまり」
「ああ! 目が泳いでる!」
「眞木……お前の水にだけアルコールでも混ざってたのか……?」
ひとり興奮状態の絵里奈に「落ち着けよ」と水のグラスを渡しながら、社長はふうと吐息を漏らした。
「いやあ、遼ちゃんモテモテだねえ」
「佐々野さん、もう余計なことを言わないでください」
「はは、いいねえ、若いってのは」
厨房の奥に戻っていく店主の背中を見つめながら、私は社長の学生の頃を想像してみる。

