社長の顔は真っ赤だった。めったにお目にかかることのない表情に、絵里奈も西村さんも目を見張っている。
顔には出なかったけれど、私の心もなぜだか落ち着かなかった。嵐の前の生暖かい風が吹く夜みたいに、どことなく気持ちの悪い感じが胸に張り付く。
「ミューズって……社長」
困惑したような表情の絵里奈に、社長は顔を紅潮させたまま答える。
「いや、だから、何年も前の話だって」
「でも明音くんは、今も遼ちゃんが同じ彼女にぞっこんだって話してたぞ。かれこれ十年も想い続けてるって」
「あいつ……」
店主から顔を逸らし、頬をひくつかせる社長を見て、絵里奈が悲痛そうな顔になる。
「え、今もって。だって社長は……」

