「なんでこんなに散らかってるんだ!先週俺が掃除してやったばっかりだろ!」
言いながら、パソコンデスクのビールの缶を見つけたらしく、さらに目をつり上げる。
「またおまえは飯も食わないで……!」
「……ちょうど今から食べようと思ってたところだよ」
言い訳のように口にすると、社長の目が疑わしそうに細くなった。
「……今何時だと思ってる」
「19時半くらい?」
ついさっきスケッチブックに向かったばかりだし、と思っていると、
「23時だ、ばかもの!」
頬をつねられて上下に揺さぶられた。
「なんでおまえはそんなに生活能力がないんだ!」
怒り口調で言いながら、社長は慣れた様子でキッチンの戸棚から果物ナイフを取り出し、買ってきたばかりのりんごの皮を剥きはじめる。
「放っておいたら何日も飯は食わないし、部屋はゴミ溜めにするし」
「ほれ」と渡されたりんごには、形のよい真っ赤なウサギの耳がついている。
爪楊枝に刺さったそれにかぶりつきながら、私は狭い台所で窮屈そうに洗い物をする社長を見上げた。
「社長って、過保護だよね」
「ああ?」

