絵里奈が急に顔を上げた。彼女のつけまつげに縁どられたぎらついた眼を楽しそうに見返しながら、店主の男性が記憶をたどるように首を傾ける。
「そうそう。遼ちゃんが大学のときさ、ずいぶん熱を上げてた女がいてね。確か……ミーズとか、ミューセとか、外国人みたいに変わった名前の子だったな」
「ちょっと佐々野さん!」
慌てたように身を乗り出す社長の横で、私はつぶやく。
「ミューズ?」
店主の男性は「そうだ、それ!」と両手をポンと叩いて大きくうなずいた。
「俺のミューズ、俺のミューズって、遼ちゃん大騒ぎだったじゃないか」
「ちょ、やめてくださいよ! 学生のときの話だから」

