社長はいないしいきなり台風男にからまれるし、さんざんな朝だと思いながら竜崎の顔を見返していると、入り口のドアが開くのが見えた。
視線が交わった瞬間、社長が目を丸くする。それから慌てたように走り寄ってきた。
「あれ、結城さん早いすね」
私から手をどけようとしない竜崎の右手を、社長がつかんで引きはがす。
「なにをやってるんだよ、おまえは」
「リボンが解けかけてたから、直してあげてただけですよ」
しれっと答えると、竜崎は社長の手を払い、私のデスクに腰を預けて微笑んだ。
「もっと時間かかると思ってたのに。案外すんなりあきらめてくれたんすね、太陽石鹸の田中社長」

