妖と人と

奪うことは出来る。

攫うことも可能だ。



待っていた。

曖昧な記憶の中の、いつになるか曖昧な言葉を信じ、忘れて。



魂の気配。



暴走状態であり、

今だからこそ、あの人の子と同じなのだと分かる。



分かったからこそ、言っておこう。



「私も、会いたかったよ」



…けれど、もう会えた。



出会いが偶然。

それからが縁。

そしてこの再会は、運命だろう。



風魔の術は効力を失っている。



暴走したままでは肉体が心配だ。



封じていた力が何かなど知らないが、人ではおそらく少年の血筋の者しか対応は不可能だろう。

だが、人では…だ。



辛そうな表情で私の腕の中にいる少年。



…会ったからには、返さないとな。



その場に座り、少年の身体を支えながらシュルリと髪から組紐を外す。



「っ!巴」



「門川?」



ー「?」



4家の中でも、門川家はまとめ役のような存在だ。

それ故か、古参と言われる妖の私とも一番親しい一族だ。



いつ、何故知ったかは知らないが、

門川家は私の組紐の意味をある程度理解していた。



大事なものであると。

無頓着も良い所の妖の私が、数少なく肌見離さず身につけているものだと。



そして歴代当主の中でも、

現当主の門川久人とは一番親しいかも知れない。