「……そう。それでも俺は優衣の兄から優衣のことを頼まれているし、少なくとも優衣にこんな顔をさせるやつには、優衣を任せるわけにはいかない。出直しておいで、悪いけど優衣は連れて帰るから。これで払ってて」


ふわりと顔を見せないように掛けられた総一郎さんのコート。その上からそっと肩を抱いて総一郎さんは私をお店から出してくれた。


「……優衣、もう顔を上げていいよ」


総一郎さんの車の助手席に乗せられても、私はずっと顔を上げれず俯いたままだった。悔しくて、悔しくてたまらなかったから。


「顔見せてよ、優衣。優衣の顔が見たい」


「……ごめんなさい。何も言い返せなくて。でも、私……」


「わかってる。あいつらが勝手に言ってることだって」


「でも、私すごく悔しくて。勝手に決められてそれを総一郎さんに言ったことがすごく、すごく悔しかったんです」


「……俺もすごく腹が立ったよ。手が出そうになった。妄想でも俺の優衣と付き合ってるなんて言いやがってって。だからさ、見せつけてやろうか。俺たちの仲」


そう言って少し、意地悪く微笑んだ総一郎さんは、私の涙を拭ってキスを落とした。