音羽堂の御曹司として生まれた俺は、小さな頃から大人というものが身近にいて、更にその大人のきたないところをたくさん見ていたこともあってか屈折していた。


俺を好きだという人間もみな、俺が好きだというよりは俺にぶら下がっている地位や金が好きなんだろうと。


だから、告白されても気持ちが動くことなんてない。

ましてや自分から誰かを好きになるなんてこと絶対にあり得ないと思っていた。

優衣に出会うまでは。


「……優衣に出会ってから、俺は本当に変わったんだよな」


思い出に浸った後、我ながらつまらない奴だったと苦笑し、誰が聞いてるわけでもないのに独り言を呟いた。


優衣と出会った日のことは今でも鮮明に覚えている。
冷めたコーヒーを温めなおしてあの日のことを脳裏に浮かべた。