舟は、あまりにもバカバカしくて空を仰いだ。
そんな事言ったら、愛ちゃんはいつ幸せになれるんだよ…

仰いだ空がもう紫色になっている。
舟は何も言わずに愛の肩を引き寄せゆっくりと立ち上がる。


「愛ちゃん、もう夜になるから帰ろう…
夜の海は寂しくなるだけだから、違う所でゆっくり話そうか」


舟は泣き崩れる愛の肩を強く引き寄せ、車まで連れて行く。
車に乗り込んだものの、舟は運転する気力もない。
舟は車のシートをフラットに倒し、寝転んだ。
車の天井を見上げ小さくため息をつく。


「愛ちゃん、でもさ…

愛ちゃんが幸せにならないと、愛ちゃんの愛する人達は、いつまでも幸せになれないと思うんだ。
愛ちゃんの家族や友達は、そんな意地悪じゃないよ…

それに、幸せになる事は悪い事なんかじゃない。
どん底を味わった愛ちゃんは、誰よりも幸せにならなきゃ…」


舟の口からは月並みな言葉しか出てこない。
それは、自分の中に愛のような優しい感情が存在しないから。


「愛ちゃん、愛ちゃんもシートを倒してみてごらん」


愛は急に舟にそう言われ、舟のようにシートを倒してみた。


「ほら、最高だろ?」