故人の墓を参るのは、もう少し早い方が良かったのではないか。

先輩はそう思う。

水の入った桶、線香、花を手に、墓前に立つ。

墓標に刻まれた名前は、夕城 翡翠(ゆうしろ ひすい)。

聞く所によると、天神地区では知らぬ者のない剣客だったそうだ。

二刀一刀自在に操り、一度切っ先を向けたならば、金剛さえも穿ち貫く大剣豪。

天神学園に入学したからには、一度でいいから墓に参っておきたいと思っていた。

そして。

先輩は、その夕城 翡翠の墓の隣にある、もうひとつの墓にも目を向ける。

翡翠の墓と、その墓の間には将棋盤。

座した2人が、常に将棋を指しているのだ。

先輩はそう聞いている。