「…テリア!」

白雪が、珍しく声を荒げた。

このままでは紀州も龍鬼も共倒れになる。

犬神という最上級の呪術兵器に加え、吸血鬼と悪魔の力を併せ持つ化け物まで覚醒してしまう。

最悪の展開。

それでも。

「ごめんなさい…」

テリアは崩れ落ち、跪いた。

「私には紀州君を封じるなんて…耐えられません…」

番犬に入隊し、素性を聞かされ、コンビを組んだ時からずっと一緒だった。

戊辰大戦の最終兵器を植え付けられたと聞いていたからどれ程冷酷な人間かと思っていた者は、心優しく、屈託なく笑う普通の少年で、時に親友、時に兄として見守ってくれて。

そこに大量殺戮を目的とした忌まわしい兵器の翳などは感じさせなくて。

今、どんなに猛り狂っていても、耳に残る明るい笑い声は消えなくて。

「紀州君を封じるなんて…兵器として封じるなんて…できません…」