基本的に、天神学園に悪意のみの人間はいない。

甲斐も将軍や奥方様からそう聞いている。

独自の信念を持って敵対する人物は時折現れるものの、それでも拳や剣を交えれば大半は分かり合うし、決闘も頻繁に起きるものの、それは相手をリスペクトしてのものだ。

ならば、あの先輩とやらも、そういった類の人間なのだろう。

事実、彼は美緒によくしてくれているらしい。

美緒がそう言うのならば、甲斐は疑念を抱く気はない。

だが。

「気になりますね、奴の生まれや、天神学園に来るまでに何をしていたのか…」

「甲斐君っ」

今度は本当に叱るような目で、美緒は甲斐を睨んだ。

「そういうの、よくない。生まれた場所や貧富の違いなんて、友達付き合いするのには関係ないでしょ?改めなくちゃ駄目」