「……ただ……」

白雪が、視線を紀州とテリアに向ける。

「私は龍鬼先輩の監視を任されている…学園の危険を未然に防げるように…見た所テリアも、似たような役目のようだけど…私も紀州の事、念の為に知っておきたい…」

…白雪の言葉に、顔を見合わせる2人。

「私が話しますね」

椅子に腰を下ろし、テリアは小さく深呼吸した。

「お見立て通りです。私は紀州君の制御役を任されています…私は目が見えない分、嗅覚、聴覚、触覚が鋭くて…紀州君の変化を誰よりも早く察知する事が出来ます。その力で、彼が覚醒するのを止める役割を担っているんです」

「覚醒?何か封じられてるのか?」

龍鬼の言葉に、テリアは頷いた。

「紀州君は、戊辰大戦時に実戦投入される事なく終戦を迎えた呪術兵器『犬神』なんです」

犬を首だけ出して土に埋め、その犬から届かぬギリギリのところに食料を置く。

そして犬を飢えさせ、死ぬ間際に首を落とす。

そうすると、犬の首は飛んで食料に食いつくという。

そうやって作られた犬の首を媒介として行う呪術が犬神の術である。

また犬神は、一種の式神のようなものである。

術者の意を受けてどこかから物を取ってきたり、或いは何者かに害をなす。

紀州は敵地奥深くに潜入し、封じられた犬神を覚醒させる事で甚大な被害をもたらす、拠点制圧型の呪術兵器として戊辰大戦中に人体実験を受けていたのだ。